『コインロッカー・ベイビイズ』

『コインロッカー・ベイビイズ』  村上龍著

キクとハシは売れてすぐに母親にコインロッカーへと捨てられた。
その年の夏、何十人もの生まれたばかりの赤ん坊がコインロッカーへと捨てられた。
その中で生き残ったのはこの二人だ。
キクはその生命力の強さゆえ、ハシはその繊細な運ゆえ生き延びる。
一度は他人の手によって人生の幕を閉じた二人が、コインロッカーの扉が開くのと同時に息を吹き返す。

二人は母親の心臓の音を知らない。
それがトラウマであり、抑止ともなっている。
二人は「その音」を求め、彷徨い始める。

キクは事象に執着する。
自分を取り囲む世界を破壊することで、母親の心音を獲得する。
ハシは観念に執着する。
自分の創造した世界を破壊することで、母親の心音を獲得する。

母親の心音はかれらのすべて。
欠落した心音を取り戻すことがすべてに優先される。
それはコインロッカー・ベイビイズの生きる理由。
復習とか、感謝とか、そんな感情に左右されることなど無い。
あるのはひたむきなまでの母親の心音への憧憬。
その目的の前では創造と破壊は意味を無くし、同列に並べられる。
ダチュラのもつ毒性が、物理的にもそれを可能とする。
救いも無ければ絶望すらない。。。
そして世界は意味も無く滅んでゆく。。


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